ロング走(LSD)のペースと長さ

前回書いた「色々なランニングのペースとそのトレーニング効果」に補足する形で、ロング走について書いてみたいと思います。

マラソンの練習方法を調べると必ずと言っていいほど出てくるのがLSD(Long Slow Distance)という練習方法。ほとんどの記事で同じようなことが書いてあります。

  1. 1kmあたり7分から8分くらいのペースで走る
  2. 毛細血管が広がって心肺機能も向上
  3. 遅筋が鍛えられて持久力が高まる
  4. 長い時間走れたという自信がつく
  5. 疲労回復の効果がある

ランニングを始めた頃、速く走ることこそがトレーニングだと思っていた僕にとって、1kmあたり7〜8分のペースで走るというのは衝撃的とういうか、そんなのやってられっか、と思ったものですが、やってみるとこのペースで走るのはものすごく楽でストレスがなく、それでいて長時間走るとしっかり足も疲れてくるので、遅筋が鍛えられるというのは本当なんだなと思うようになりました。毛細血管とか心肺機能についてはそんなすぐには実感できないのでわかりませんが。

ただ、僕の場合、LSDやっても自信なんてつきません。こんなにゆっくり走っているのに、こんなに足がつらくなるならフルマラソンなんてとても走れないと思いかえって自信をなくしてしまいます。

また、疲労回復なんて感じたことなく、LSDの後は足が疲れて翌日まで響きます。疲労回復というのはよっぽど鍛えられた上級者の話なんでしょうね。というか、疲労回復というのは負荷の低い有酸素運動によって体にたまった乳酸を消費するという意味であって、傷ついて疲弊した筋肉を回復する効果なんてないですよね、きっと。

遅筋を鍛える目的で続けていると、10km, 15km, 20kmと段々距離を延ばし、今では25kmくらい走れるようになったので、実際効果があるようです。

しかし、Jack Daniels博士のVDOT Running Calculator(「色々なランニングのペースとそのトレーニング効果」参照)に出会い、自分のEasyペースを計算してみると1kmあたり5:21〜5:39というペース。Easyペースというのはロング走をするときのペースということになっているんですが、LSDのペースとは随分違います。そもそもJack Daniels博士の「Running Formula」ではLSDという用語は出てこないで、ロング走(long run)という言い方をしています。

そこで疑問に思ったのが、ロング走とLSDは同じトレーニングなのかということ。もしそうだとしたら、どちらのペースで走った方がより効果的なのでしょう?

ウィキペディアの「Long Slow Distance」の項目を見てみると、1kmを7-8分というような具体的な数値は書いてなく、

10kmを走るときのペースに比べて、1マイルにつき1 – 3分遅いくらいの心地よく走れるペースで走る

という記述があります。

さらにウィキペディアに引用されていた文献「Aerobic Endurance Training」のLong Slow Distanceのセクションには

Intensity is usually less than 70% VO2max, or equivalent to about 80% maximum heart rate.

とあって、Jack Daniels博士のEasyペースにだいぶ近いペースとなっています。

また、ウィキペディアの注釈に

ヘンダーソン自身はLong Slow Distanceを出版した後すぐに、LSDが「誤解を招く可能性のある言葉」であるとして使用を取りやめている

ともあるので、どうやらロング走とLSDは同じものを指していて、海外ではLSDという言葉は使われなくなってロング走(long run)と呼ばれることの方が多くなったんじゃないかと推測できます。

7-8分/kmというペースについては、ランニング初心者にとっては適切なペースなので、わかりやすくするためにどこかのサイトで推奨され、それをキュレーションサイトがコピペして日本で広まったのかもしれないですね。

Long Runについてさらに調べてみると、興味深い記事を見つけました。「What is the Optimal Long Run Pace」というRunnersConnectの記事です。

この記事の「What is the optimal pace if your long run is easy?」(Easyペースでのロング走に最適なペースは?)というセクションに、Easyペースで走ることによるいくつかの生理学的な効果とそれぞれの効果を得るのに最適なペースが載っていました。以下に簡単に紹介します。

毛細血管の発達
筋繊維をとりまく毛細血管が増え、筋繊維に酸素や栄養をより速く送ることができるようになる。
5kmのレースペースの60-75%のペースで最も効果がある。

筋繊維中のミオグロビンの量を増やす
筋繊維に供給された酸素と結合するミオグロビンというタンパク質を増やし、有酸素運動中により多くの酸素を筋肉のために保持しておくことができるようになる。マラソンで重要なのは遅筋繊維で、遅筋繊維を刺激する最も効率的なペースはVO2maxのペースの63-77%、5kmのレースペースの55-75%。

筋肉中に蓄えられるグリコーゲンの容量を増やす
マラソンを走る上でグリコーゲンを筋肉に蓄えておくことは重要で、ロング走をすることによって筋肉中のグリコーゲンを枯渇させ、そのストレスに対する体の反応で、筋肉がより多くのグリコーゲンを蓄えるようになる。糖質を燃焼させる最適なペースについて科学的な研究はないが、経験的に最適なペースは5kmのレースペースの65-75%であることがわかっている。

ミトコンドリアを増やす
筋細胞の中にあって、糖質や脂肪、タンパク質をエネルギーに変えるミトコンドリアが増え、より多くのエネルギーを生み出せるようになってより速く、より長く走れるようになる。Holloszyの研究によるとVO2maxの50-70%のペースで2時間ランニングするのが効果的であり、Dudleyの研究では、遅筋繊維においてはVO2maxの70-75%のペースで90分間走るのが最適であることがわかった。

でも、ミトコンドリアの研究ってどちらもラットでやってるみたいなんですけど人間にもあてはまるんでしょうか??? Abstractしか見てないのでよくわかりません。

なんかわからないところもありますが、色々な効果があるようです。速筋を鍛えてマッチョになる場合は筋肥大によって筋肉が強くなることはよく知られていますが、遅筋の場合はこんな風に鍛えられるんですね。

で、どれくらいのペースで走るのが一番いいかといえば、VO2maxの70-75%のペースで走れば上記全ての効果を最大限に得ることができることになります。Jack Daniels博士のEasyペースはVO2maxの59%-74%ということになっているので、これの一番速いペース付近で走っておけばいいってことです。

と言っても、このペースより遅いと効果がなくなるというわけでもないでしょうし、この記事の信憑性も確かではないので、自分が楽に走れるペースで走っていいとは思います。そしてLSDでよく言われている7-8分/kmというペースにこだわる必要はまったくなさそうです。

距離はどうでしょう?

今はマラソン5週間前で、平日練習では週2回くらいEasyペースで約90分走っているんですが、たしかにこれくらいが筋肉への刺激がちょうどよく、しっかり鍛えられてるという実感があるので、ミトコンドリアを増やすのに最適な90分というのはなかなか良いと思います。

でも週末のロング走だったらもうちょっと長く走って、ちょっと遠くまで行きたいなーという気持もあります。ミトコンドリアの90分というのはその時間で効果がほぼ最大になって、それ以上走ってもそれほど効果があがらないということでしょうから、その他の効果をもっと引き出すためにも長く走りたければ走っても問題ないと思います。

ただし、長く走り過ぎるのは良くありません。一度32kmを3時間半くらいかけて走ったことがあるんですが、体へのダメージがはんぱなく、次の日高熱を出してお腹もこわしてしまいました。結局その後1週間練習できず、こんなことなら走る距離を抑えて1週間ちゃんと練習した方が効果的だったに決まっています。

Jack Daniels博士はこの点だいぶ保守的で、週間走行距離が40マイル(64km)未満の人は週間走行距離の30%まで、それ以上の人は2時間半もしくは週間走行距離の25%のどちらか短い方までを推奨しています。なのでロング走で30km走っていい人は週間走行距離が120km以上でEasyペースが5分/km以内の人ってことになります。そんなの普通の市民ランナーじゃ無理。

それにしてもロング走が週間走行距離の30%って少なくとも週4回走れってことですよね、博士・・・。

まあJack Daniels博士の本の大部分は陸上競技をやってる学生をターゲットとした内容になっているので、週1, 2回しか走らない人は十分な休養が取れるわけだから2時間半までなら走っちゃってもいいと思います。

基本的にロング走はグリコーゲンを枯渇させて体にストレスを加えるので、長く走り過ぎるとある時点から体が受けるストレスが急激に増大します。なのでくれぐれも無理はしないで、「もう足が動かない!!」と思ったら歩くのもありです。

ちなみにJack Daniels博士はロング走のときの水分補給はスポーツドリンクではなく水を薦めています。理由はもちろんグリコーゲンを枯渇させるためなんですが、もしも博士の言う距離よりも長く走ろうとするならば、もしくは朝ごはんをちゃんと食べずに走りに出掛けてしまう人(私のことです)は、スポーツドリンクで糖質も補給しながら走った方がよいと思います(本当はちゃんとごはんを食べた方がいいですよね)。

さて水分補給なんですが、みなさんどうしてますか? ペットボトルを持ちながら走るのはちょっと嫌ですよね。僕はこちらのKalenji ランニング ボトルキャリー 500 mlを使っています。
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シンガポールだとなかなかこういうのが見つからなかったんですが、デカトロンでようやく見つけて買いました。19ドル(日本だと1,690円)と値段も安く、携帯とかエナジージェルなんかも一緒に入れられるので重宝しています。ボトルの上部をゴムのバンドで固定するようになっているので、ランニング中のボトルの揺れは小さく、出し入れも簡単です。

長い距離を走る人なんかはハイドレーションバッグを背負っている人もいますね。こちらもデカトロンでお安く手に入ります。

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