ランニングを始めて間もない頃は、ただがむしゃらに、できるだけ速く走ろうとしていました。走るのを速くするには速く走った方がいいに決まっているという考えです。でも、マラソンの練習方法を調べてみると LSD (Long Slow Distance) なんていうのが出てきたりして、必ずしも速く走れば効果があるわけではないんですね。
今、Jack Daniels博士の書いた「Running Formula」という本(Kindle版)を読んでいるんですが、この本にはランニングの練習における5つのペースとそれぞれの練習の目的が書いてあってとても参考になります。本を読み終えたらあらためて紹介しようと思いますが、まずは Jack Daniels博士のThe Run S.M.A.R.T. Projectというサイトにある、練習に適切なペースを個人の走力にあわせて計算するツール(VDOT Running Calculator)を紹介します。
このツール、自分のウェブサイトに埋め込んでもいいということなのでやってみました。ブラウザによっては表示できないかもしれませんので、万が一見えないときは本家のサイトをご利用ください。また、モバイル端末でご覧の方は画面を横向きにしてご利用ください。
ツールの使い方はだいたいわかると思いますが、まずは自分の今の走力(DistanceとTime)を入力します。最近レースに出た人はそのレースの距離とタイムを入力すればいいでしょう。レースに出てない人はやや控え目に見積った予測タイムを入力するのがいいそうです(Jack Daniels博士はオーバストレスになるくらいなら負荷を抑えた方が良いと考えるので)。Timeの代わりにPaceを入力することもできます。単位はmi(マイル)とkmが選べます。
入力を終えて「Calculate」ボタンを押せば、下の部分に結果が出るので「Training」タブをクリックします。すると5つのTypeごとにペースが表示されているのが見えると思います。各Typeの横にあるグレーのドキュメントっぽいアイコンをクリックすると英語の説明が表示されますが、簡単に解説すると、
Easy 65-79% |
会話ができるくらいのペースでウォーミングアップやクールダウン、ロング走で使います。遅筋に血液を送る毛細血管を増やしたり遅筋が酸素を取り入れる能力を高める効果があります。また心臓が1回の鼓動で送る血液の量は最大心拍数の60%くらいのときでほぼ最大に近い量になるらしく、これくらいのペースでも心臓の筋肉を鍛えることができるそうです。 |
Marathon 80-90% |
文字通りマラソンを走りきれるペース。マラソンのペース感覚をつかむ練習になります。 |
Threshold 88-92% |
Lactate Threshold(日本語で乳酸性閾値、よくLT値と略される)のペースのことだと思います。心地良いつらさ(comfortably hard)のペースと言われ、長くても60分走るのが限界のペース。LT値ギリギリのところで走るので、体が乳酸を処理する能力を高め、LT値を上げる効果があるそうです。テンポ走で使います。 |
Interval 98-100% |
文字通りインターバル走で使います。VO2max(最大酸素摂取量)でのペースになり、体が最大限酸素を消費している状態を維持することによってVO2maxを高める効果があります。ただしその状態になるまでには走り始めてから2分くらいかかるらしく、少なくとも2分以上走り続ける必要があります。また、長く走り続けると乳酸がたまってしまうので、1回のインターバルで走るのは長くても5分以内です。 |
Repetation | レペテイション走で使うペースです。レペテイション走は間に完全な休憩をはさむインターバル走のことで、1本1本全力で走ることができる練習のこと。速いスピードで走ることで、効率の良い走り方を体が自然に覚えてランニングエコノミーが高くなります。 |
という感じです。各タイプ名の下に○○%とあるのは心拍数が最大心拍数の何パーセントくらいになる運動強度かという意味です。もし自分の走力がまだわからないという人はこの値を参考にしてみてください。
ここで重要なのはここにあるペースよりも速く走ったところでトレーニングの効果はあがらずに、ただつらくなるだけ、ということです。たとえば、遅筋を鍛えて持久力を高めるためにロング走をしているならEasyペースより速く走る必要はないし、VO2maxを高めるためにインターバル走をしているのにレペテイション走なみに速く走っても乳酸がたまって効果が出る前にバテてしまいます。
Jack Daniels博士は最大限の努力で最大の効果を引き出すよりも最小限の努力で最大の効果を出した方が良いと教えてくれます。特にランニングを始めたばかりの人は、わざわざつらい思いをして速く走る必要はなく、Easyペースで走るだけでもランニングに必要な体を作ることができるのです。
「Equivalent」タブをクリックすると、今の走力でマラソンや10kmなどのレースをどれくらいのタイムで走ることができるかを見ることができます。自分の10kmのPR(43:10)を入力すると、1500mのタイムが5:39とでて、実際のPR(5:31)に近い値がでてくれました。
このVDOT Running Calculatorは超便利ですよね。ぜひ活用してより効果的な練習をしましょう!