ランニングで腕を振る意味はどれだけあるのか?

感覚的に、走るときに腕を振るのは重要だと思ってます。坂道を登るときとか、疲れてきたときに、意識して腕を振ると自然に足も動いてまだまだ走れるようになることは何度も体験してるので。

これは作用反作用の関係で、腕を振って上半身が回転するように筋肉が働けば、その反作用で下半身には逆向きに回転しようとする力がかかるからです。逆に言えば、走るために足を動かすときは下半身が右に左に回転を繰り返すので、その反作用で自然に腕が振られるわけで、腕を振るのは体全体の角運動量をゼロに保つための自然な動作と言えるわけです。

でもそれなら肩だけ振ってればいいんじゃないの? と思わなくもないわけです。腕を振ったらその分エネルギーを消費するわけで、ランニングエコノミーを考えたときに、積極的に腕を振る意味はあるのでしょうか?

ひとつの理由としては、胴体を回転させるよりも、腕を回転させた方が楽だから、というのはあると思います。つまり、足を動かす反作用で胴体を回転させようとする力を腕に逃がして、腕を回転させる方が、肩だけ回転させて胴体が大きく捻れるよりも効率が良いというわけです。

でも、それ以上の意味があることを示唆してくれる記事をみつけたので紹介したいと思います。RunnersConnectの「Introduction to Running Biomechanics」です。

この記事自体とても面白かったのですが、ここで注目したいのは記事の真ん中らへんにある「Upper body and arm mechanics」のセクションです。そこには

During the braking (absorption) stage described above (initial contact to midstance), the arms and upper body produce a propulsive force.
During the propulsion stage (midstance to toe off), the arms and upper body produce a braking force.
By working as opposites, forward momentum is maintained.

と書かれています。つまり、足が重心よりも前に着地すると地面からの垂直抗力と摩擦で、下半身を減速させるような力がかかりますが、慣性で腕や上半身が加速すれば体全体の運動量(慣性モーメント)は一定に保たれるわけです。その後、重心が着地した足よりも前に移動したときに、腕や上半身の運動エネルギーを下半身に戻すことができれば、エネルギーのロスを防ぐことができそうです。

腕の振り自体は肩を中心に振り子のような運動をするだけなので、それほど力を必要としませんし、重力を利用して前に振った腕を後ろに戻すことができるので、腕を振ることによって体全体の運動量(慣性モーメント)を一定に保てれば、加減速によるエネルギーの浪費を防ぐことができればるというわけです。

もしも腕を振らなかったら、下半身の加減速の反作用で胴体が前後に揺れ、筋肉が大きな仕事をすることになるので余計に疲れそうです。

もちろん、足を着地するときにできるだけ重心の下近くに足を降ろせば下半身の減速を防げるので、腕の振りも小さくて済むと思うわけですが、無理にそうして窮屈な走りをせずとも、腕を振ることによってエネルギーのロスを防ぐことができるというのは新しい発見でした(実際の効果はどれだけあるのかわかりませんが)。

短距離を走るときなんかは、重心よりも前に踵から着地するんですが、やっぱり腕の振りは大きくなります。しかも前に大きく突き出すように腕を振るようになるので、角運動量だけでなく、並進の運動量まで一定に保つために腕を振るというのは一理あると思います。

ところで、腕の振りによって並進の運動量を一定に保つのが本当だとしたらどういう腕振りが理想的なのか、考えてみました。ポイントは短距離のときみたいに筋肉の力に頼らずに、重力や胴体に蓄えられた弾性エネルギーを利用してなるべく楽に腕を振ることです。

右足が着地するとき、右腕が後ろ、左腕が前に振られています。このときに腕が(重力や胴体の捻れを戻す力によって)前方に加速されるのが理想なのですが、前に振られた左腕は重力で後ろに引き戻され、後ろに振られた右腕が重力で前に加速されるので、後ろに振られた右腕がなるべく前方向へ加速されるようにして、左腕はなるべく前後の加速が少なくなるようにした方がいいわけです。

つまり、右腕は大きく後ろに突き出して前後方向の動きが大きくなるように振り、左腕はあまり前に出さず胸の前で横に振るようにすれば、右腕を前に加速する力を左腕で打ち消さずに、全体で前に加速する力を得ることができます。

次に、右足を蹴り出すときですが、このときは腕全体で後ろ向きに加速された方がよいことになります。

右足を蹴り出すときは、右腕を前に、左腕を後ろに振るわけですが、このときも前に振った右腕を胸の前でくるっと回すようにすれば、前方向の動きが横方向の動きに変わるので、後ろ向きの加速を得ることができます。同様に、胸の前で横方向に振っていた左腕を後ろ向きに振ることでも後ろ向きの加速を得ることができます。

まとめると、腕振りは、胸の前では横方向にくるっと回す感じにして、後ろに振るときにしっかり引く、ということになります。たぶんみんな自然にやっている腕振りですよね。

結局はバランスを取るために腕を振っているということなので、楽に自然に腕を振ればいいわけで、できるだけ肩の力を抜いて、腕を振ったら疲れちゃうんじゃないかなんて余計な心配はせずに、腕振りをすることを心掛けたいと思います。

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